
犬の心臓病では、病状に応じて「利尿剤」と呼ばれる薬が使われることがあります。特に心不全が進行すると、体内に余分な水がたまり、肺うっ血や肺水腫などを引き起こす可能性があります。
一方で、利尿剤を飲むと腎臓に負担がかかるのでは?水をたくさん飲むようになったけれど大丈夫?など、飼い主さんが不安に感じることも少なくありません。
利尿剤にはいくつか種類があり、作用する場所や特徴も異なります。心不全の状態やうっ血の程度によって、使用する薬や投与量を調整することも重要です。
本記事では、犬の使用される利尿剤の基本的な作用や種類、心不全で使用する理由や治療中に注意したいポイントについて解説します。
犬に使う利尿剤とは?

犬の利尿剤は、肝臓から尿として排泄される水分量を増やす薬です。
心不全などによって体内に余分な水分がたまった場合、その排泄を促すことで、肺うっ血や肺水腫などの改善に役立ちます。
ここでは、利尿剤の基本的な作用や、犬の心不全で使用される理由について詳しく解説します。
利尿剤の基本的な作用
利尿剤は、腎臓でのナトリウムや水分の再吸収を抑え、尿として排泄される水分量を増やす薬です。
そもそも尿は、血液をもとに腎臓で作られています。腎臓では血液をろ過し、必要な水分や電解質を再び体内へ取り込むことで尿を作ります。
利尿剤を使うと、尿として排泄される水分が増えるでしょう。つまり、尿が増えることで血液中の水分が減り、純化する血液量も減少します。これによって心臓に戻ってくる血液量が減るため、心臓にかかる負担も軽減につながります。
心不全では、この作用によって体内にたまった余分な水分を減らし、肺うっ血や肺水腫などを改善することが目的です。
ただし、利尿剤は種類によって採用する場所や仕組みが異なります。犬の心不全では、特に利尿作用の強いループ利尿薬がよく用いられます。
犬の心不全で利尿剤を使う理由
犬の心不全では、心臓のポンプ機能が低下し、血液がスムーズに循環しにくくなることで、血管内に血液が滞る「うっ血」が生じます。
特に左心不全では、肺の血管内の圧力が上昇し、血管から水分が漏れ出すことで肺水腫を引き起こす場合があります。肺水腫になると、呼吸が速くなったり、苦しそうに呼吸したりするなど、命に関わる症状が現れることもあるでしょう。
利尿剤は、尿とともに余分な水分やナトリウムを排泄し、血管内の水分量や圧力を減らすことで、うっ血の改善を図る薬です。特に心原性肺水腫では、呼吸状態を改善するための重要な治療となります。
利尿剤は心臓病の犬なら必ず使うわけではない
心臓病と診断された犬すべてに、利尿剤が必要になるわけではありません。利尿剤は主に、肺うっ血や肺水腫、胸水など、体内に余分な水分がたまっている場合に使用されます。
例えば、僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)があっても、うっ血性心不全を発症していない段階では、利尿剤を使用せずに経過を観察することもあります。
そのため、利尿剤の必要性は心臓病の種類や進行度だけでなく、呼吸状態や画像検査などをもとに、うっ血の有無を確認して判断することが重要です。
犬で使われる利尿剤の種類と作用機序

犬に使用される利尿剤にはいくつかの種類があり、腎臓で作用する場所や水分を排泄する仕組みが異なります。心不全の治療では、主にループ利尿剤が用いられますが、病状によってはほかの種類の薬を併用することもあるでしょう。
ここでは、犬に使用される代表的な利尿剤の種類と、それぞれの働きについて解説します。
ループ利尿薬
ループ利尿薬は、腎臓のヘンレ系蹄上行脚(けいていじょうこうきゃく)という部分に作用し、ナトリウムや水分の再吸収を抑えることで尿量を増やす薬です。
代表的な薬には、以下のものがあります。
- フロセミド
- トラセミド
利尿作用が強いため、犬の心不全で肺うっ血や肺水腫などがみられる場合に、余分な水分を体外へ排泄する目的で使用されます。特に心原性肺水腫では、呼吸状態を改善するために重要な薬のひとつです。
一方で、利尿作用が強い分、使用中は脱水や腎機能、電解質の変化などに注意する必要があります。そのため、犬の状態を確認しながら投与量を調整することが大切です。
サイアザイド系利尿薬
サイアザイド系利尿薬は、腎臓の遠位尿細管(えんいにょうさいかん)に作用し、ナトリウムや塩化物の再吸収を抑えることで、尿として排泄される水分量を増やす薬です。
代表的な薬には、いかのようなものがあります。
- ヒドロクロロチアジド
- ベンドロフルメチアジド
ループ利尿薬と比べると利尿作用は穏やかですが、ほかの利尿薬と組み合わせることで、十分な利尿効果が得られない場合の治療に用いられることがあります。
一方で、ナトリウムやカリウムなどの電解質バランスに影響を与えることがあるため、使用中は犬の状態を確認しながら投与量を調整することが大切です。
カリウム保持性利尿薬
カリウム保持性利尿薬は、腎臓の遠位尿細管から集合管にかけて作用し、ナトリウムの再吸収を抑えながら、カリウムの排泄を抑える薬です。
代表的な薬には、以下のようなものがあります。
- スピロノラクトン
- エプレレノン
なかでもスピロノラクトンは、アルドステロンというホルモンの働きを抑えることが目的です。犬の心不全では、体内の水分やナトリウムの調整に加え、心不全の進行に関わるアルドステロンの作用を抑える目的でも使用されます。
ただし、カリウムの排泄が抑えられるため、使用中は血液中のカリウム濃度が高くなりすぎないよう注意が必要です。腎機能なども確認しながら、犬の状態に合わせて使用することが大切です。
犬の心不全で利尿剤を使用するケース

犬の心不全では、体内の余分な水分がたまることで、肺うっ血や肺水腫、胸水などを引き起こすことがあります。こうした状態では、利尿剤によって水分の排泄を促し、症状の改善を図ります。
一方で、利尿剤は使い方によって脱水や腎機能、電解質などに影響することもあるため、犬の状態を確認しながら使用することが大切です。
ここでは、犬の心不全で利尿剤を使用する主なケースと、治療中に注意したいポイントについて解説します。
心原性肺水腫や肺うっ血
心不全が進行すると、肺の血管に血液が滞ることで「肺うっ血」が起こることがあります。さらに、血管内の圧力が高まって水分が肺に漏れ出すと、「肺水腫」につながります。
こうした状態では、肺にたまった余分な水分を減らすために利尿剤を使用するのが一般的です。利尿剤によって水分やナトリウムの排泄を促し、肺うっ血や肺水腫の改善を図ります。
特に肺水腫では呼吸が苦しくなるなど、命に関わる症状が現れることもあるため、速やかな治療が重要です。
胸水や腹水などの体液貯留
心不全では、血液の循環が滞ることで血管内の圧力が高まり、胸腔内に水分がたまる「胸水」や、腹腔内に水がたまる「腹水」が生じることがあります。
こうした体液貯留に対しても、利尿剤によって余分な水分の排泄を促し、症状の改善を図ることがあります。ただし、胸水や腹水の原因は心不全以外にもあるため、原因や全身状態を確認したうえで治療方針を決めることが重要です。
利尿剤によって起こる変化
利尿剤を使用すると、尿量が増えたり、水を飲む量が多くなったりすることがあります。これは、利尿剤によって腎臓から水分やナトリウムの排泄が促されるためです。
一方で、利尿作用が強すぎると、体内の水分が不足して脱水を引き起こします。また、腎機能や電解質のバランスに影響することもあるため、飲水量や尿の状態、食欲などを日頃から確認することが大切です。
治療中はどのような検査を行う?
利尿剤による脱水や腎機能、電解質の変化を確認するため、治療中は定期的な検査が必要です。
主に血液検査で、BUN(尿素窒素)やクレアチニンなどの腎機能の指標に加え、ナトリウムやカリウムなどの電解質濃度を確認します、また、体重や血圧、脱水の有無、呼吸状態なども重要な確認項目です。
これらの結果をもとに、利尿剤の投与量や治療方針を調整し、犬の状態に合わせて管理することが大切です。
まとめ

犬の利尿剤は、腎臓から水分やナトリウムの排泄を促し、体内にたまった余分な水分を減らすための薬です。心不全による肺うっ血や肺水腫、胸水や腹水などの改善が目的です。
利尿剤にはいくつかの種類があり、それぞれ作用する場所や特徴が異なります。また、使用中は多飲や多尿のほか、脱水や腎機能、電解質の変化にも注意が必要です。
完全に治療を続けるためには、定期的な検査で犬の状態を確認しながら、適切に投与量を調整することが重要です。気になる変化がみられた場合は、自己判断で薬を中止したりせず、かかりつけの動物病院に相談しましょう。

