最終更新日:2025-08-15|監修:獣医師

目次

  1. 涙やけとは
  2. 原因
    1. 涙の過剰分泌(ドライアイ・逆さまつげ・眼瞼内反症)
    2. 顔の構造(鼻涙管閉塞 短頭種 眼瞼内反症
  3. 治療法
    1. 原因特定と除去(鼻涙管洗浄・抜毛 等)
    2. ムチン産生促進点眼
    3. 毎日のケアと注意点
    4. 解剖学的異常に対する手術
  4. 「涙やけ専用フード」の注意点
  5. まとめ
  6. 関連ページ(内部リンク)
  7. よくある質問

涙やけとは?

涙やけは、過剰にあふれた涙が目の下の被毛や皮膚に付着し、酸化や細菌増殖で茶色~赤茶色に変色した状態です。白毛の犬種(マルチーズ、ビション、トイプードル等)で目立ちます。

獣医学領域では流涙症(りゅうるいしょう)といいます。

涙やけが起こる主な原因

ざっくり2つの原因に分けると涙の出過ぎなのか、でた涙が正しく排泄されずに外に漏れているのか、
あるいはその両方が起きることによって涙やけが発生します。

1. 涙の過剰分泌(逆さまつげ)

逆さまつげ(睫毛乱生)やドライアイでは、まつ毛や瞼縁(まなぶち)が角膜を刺激し、反射的に流涙が増えます。
また、まぶたの裏にある涙の分泌腺(マイボーム腺)が炎症を起こすことによって過剰に涙を流してしまうこともあります。

眼瞼内反症は涙の過剰分泌も引き起こし、同時に排出経路の障害も引き起こします。
眼瞼内反症とは?まぶたの縁が内側に巻き込み、まつ毛や皮膚が角膜・結膜に触れてしまう疾患です。
皮膚が直接目にふれているので、毛細管現象によって涙が排泄されずに目頭から流れてしまいます。
慢性刺激により涙やけだけでなく角膜潰瘍や結膜炎を引き起こすことがあり、重度では手術が推奨されます。

2.排泄経路の障害(鼻涙管閉塞 眼瞼内反症)

目を守るために常に涙は出続けています。
大袈裟にいうと犬も人も泣きっぱなしの状態です。
ですが悲しいときに泣くように、目からこぼれることはありません。
通常、涙は瞼から出た後に目頭に行き、管を通って鼻に流れているからです。
しかし、この管が何らかの影響によって塞がれていると、行き場を無くした涙が目頭から出てくるのです。

鼻涙管の狭窄/閉塞などによって涙が鼻に排出されず外へ溢れます。
例えば鼻涙管に何かが詰まってしまう涙石症、炎症いよって管が狭くなってしまう涙嚢炎などがあります。

特に、シーズー、ペキニーズ、パグ等は涙の排出経路が狭く詰まりやすい傾向があります。
眼瞼内反症によって涙の排泄経路に流れる前に目頭から涙が溢れてしまいます。

涙やけの治療法

1. 原因の特定と除去

  • 涙の出過ぎなのか、でた涙が正しく排泄されずに外に漏れているのか、あるいはその両方なのかを検査を行うことによって調べてゆきます。
    フルオレセイン検査で角膜に傷がないか調べます。
    シルマー涙試験で、涙の量が多すぎないか、少なすぎないか評価をします。
    ローズベンガル染色試験で角膜や結膜の上皮がムチン(涙の成分の一つ)で覆われているかどうかを調べます。
  • 獣医師の診察で鼻涙管洗浄逆さまつげの抜去、異物除去を行います。
  • 感染があれば抗菌薬・抗炎症薬で治療します。

2. 涙の質を改善する治療(ムチン点眼)

涙は油の成分と、水の成分に分かれています。水の成分だけだと簡単に乾いてしまうからです。
ムチンとは涙の成分のうち、水の方です。
涙の主要成分の一つであるムチンの産生を促進する点眼薬を用いて、涙の安定性と角結膜保護を高めます。
涙が目に均等に行き渡るようにする役割があります。
ムチンが少ない涙→涙が均等に行き渡らず、どこかがすぐに乾く→乾くと目が痛いため、水っぽい涙をたくさん流して補おうとする→涙の量が増える→涙の排泄経路では補えない量の涙が出るため、目頭から流れる→涙やけになる

という現象が起こります。ムチンの産生を促進することで涙がすぐに乾かないようにして、結果的に涙の量を減らし、涙やけを軽減する治療法です。

刺激低減と慢性炎症の改善が期待できるため、体質的な流涙や軽度の表層性角結膜障害の併発例で選択肢になります。使用可否や用量は獣医師の指示に従ってください。

3. 毎日のケアと注意点

  • 刺激の少ないペット用アイクリーナーで1日1~2回やさしく拭取る。
  • 顔周りを短く整え、毛が目に入らないようにする。
  • 注意:「温かい湿った布」での拭き取りは人の医療データを外挿したケアで、犬での十分な科学的検証はありません。行う場合は低温・短時間(5-10分ほど)で、皮膚刺激や低温熱傷に注意してください。

4. 解剖学的構造異常に対する手術

重度の眼瞼内反症、先天的な鼻涙管の強い狭窄・閉塞、鼻・眼窩周囲の構造異常では、外科手術が必要になることがあります。手術適応は検査(蛍光色素試験、鼻涙管プロービングなど)と症状の重さで判断します。

「涙やけ専用フード」の注意点

市販の涙やけ対策フードについて、涙やけ改善の明確な医学的根拠は現時点で不十分です。
例えば食物アレルギーのために涙やけが出ていた場合に、アレルギーの原因となる物質を含まないフードにかえることで涙やけが改善する。
消化によいフードによってムチンの産生が増えて角膜の炎症が抑制される。
オメガ3脂肪酸などの炎症を抑える働きのある成分が、目の周りの炎症を抑えることによって、過剰な涙液が減り、涙やけが減る。
それぞれ考えられることではありますが、根拠を示した研究は現在私の知る限り存在しません。
また、私自身はフードを変更したことによって涙やけが改善した子を見たことはありません。
自己判断ではなく獣医師に相談しましょう。

まとめ

  • 涙やけは原因が多因子。まずは原因同定が重要。
  • ムチン産生促進点眼で涙の質改善が見込める例がある。
  • 構造異常では手術が必要なことがある。
  • 日常ケアはペット用製品が基本。
  • 「涙やけフード」は根拠が不十分。食事変更は獣医師と相談。

よくある質問

Q1. どのくらいで改善しますか?

原因と重症度によります。構造異常や慢性炎症では数週間〜手術後まで期間を要します。

Q2. サプリやフードで治りますか?

サプリや「涙やけ専用フード」のエビデンスは不十分です。まず原因診断を優先してください。

Q3. 市販の目薬を使っても良い?

自己判断の点眼は悪化の恐れがあります。ムチン点眼を含め、適切な薬剤選択は獣医師に相談を。

この記事は一般的情報の提供を目的としており、個別の診療行為ではありません。症状が続く場合は必ず受診してください。